お疲れ様です。
今回、日経平均の算出の都合上、BPSが減っているという点を簡単に記載しときます。
そのことを知らずにBPSが減っているのを見ると、赤字予想の会社が急増してBPSが急激に毀損し始めている…という判断をして、心配する人もいると思ったからです。
ご存じない方のために書くと、最近日経平均のBPSがジリジリ減っています。BPSが減るということは自社株買いをしたり、赤字を出したりして純資産が減っているということを意味します。
基本的には日経225に選ばれる企業は黒字の会社が多いので、上記の通り、当然BPSは右肩上がりの推移となります。
今回の記事はそんな日経225の企業のBPSがコロナショックで企業業績が悪化して減ったのではないか?と気になる人のための記事になります。
結論から書くと、これは日経225を構成する企業がコロナショックの影響で赤字予想を出し始めて、全体としてEPSがマイナスになり、BPSを毀損しているわけではないと思料。(EPSがマイナスになっていたらPERが出せません。)
日経平均の算出の都合上、日経225採用銘柄の純資産が減らずとも、BPSが減ってしまうことがあり、その効果によるものだと考えております。
どのような時に上記のようなことが起こるかを簡易的に説明すると日経平均の時価総額が前日と比較して変化がなかったとしても、日経平均株価が下落することがあり、そのような場面ではBPSは減ってしまいます。
式で書くと以下の通りです。
よって、
では、なぜそのようなことが起きるのかを詳しく見ていきましょう。
まず、時価総額の変化率と株価の変化率って同じじゃないの?という当たり前の疑問があると思うので、なぜ日経平均の場合はそれがズレるのかを記載していきます。
以下はここ近年における日経平均時価総額の日次変化率と日経平均株価日次変化率の差を日次ごとに算出し、その絶対値をプロットした表です。
上記表で、日経平均225銘柄の時価総額の日次変化率と、日経平均株価の日次変化率がズレいている時ほど、スパイクしてます。直近大きくスパイクし、日経平均225銘柄の時価総額の日次変化率と、日経平均株価の日次変化率がズレが大きくなってます。
次に今月(2020年3月)の日経平均時価総額の日次変化率と日経平均株価の日次変化率を記載します。(ここは時系列で合計しているので日次変化率は日次対数リターンで計算してます)
日経平均株価の方が時価総額に対して下落していることが分かります。
なぜ日経225の時価総額の変化率と日経平均株価の変化率はズレるのでしょうか?発行済株式総数が変わったから? いえ、そうではなく、日経平均株価の計算方法に原因が存在します。
最初に日経平均株価の計算方法について以下に記載します。知っている方は読み飛ばしてください。
日経平均は単純平均で計算され、TOPIXは加重平均で計算されます。
一方、日経平均は単純平均でも、225採用銘柄の株価の合計 / 225 で計算されているわけではありません。基本的な式としては上記で間違いないのですが、それだといろいろな弊害があるので弊害を緩和するため、みなし額面と除数というものを計算に使います。
まず、みなし額面を使う理由です。
225採用銘柄の株価の合計 / 225で計算した場合、値嵩株の影響が大きくなってしまいます。
例えば…
225採用値嵩株
JR東日本(9022)17,665円、 富士通(6702)8,930円
225採用低位株
みずほFG(8411)122円 日本軽金属HD(5703)144円
上記4銘柄で平均を出すと、6,715円となります。当然値嵩株の影響が大きく、低位株の影響が小さく出てしまい指標には使えません。
そこでみなし額面の出番です。
今でも債券は額面がありますが、以前は株にも額面がありました(2001年10月の商法改正で廃止)
額面金額は、20円、50円、500円、50000円の4種類があり、今でも株価が低位株、値嵩株と株価の水準が異なるのはこの額面の影響を受けているためと思われます。
というわけで、みなし額面というのは、額面50円以外の銘柄を額面50円に換算して、額面を統一することで株価水準を調整するファクターというわけです。
先程の例の銘柄では、JR東日本や富士通は元々額面が500円。
つまり、額面50円換算の株価 = 株価×(額面50円 / 額面500円)で計算されます。
よって、値嵩株はみなし額面で調整を加えることで株価が大きい影響を緩和します。
少し余談をします。
値嵩株の影響を取り除けるなら、値嵩株の代表格であるファーストリテイリング(株価約4万円)、ファナック(株価約1.2万円)、東京エレクトロン(株価約1.6万円)等もみなし額面で解決できるのでは?と思うかもしれません。
ですが、恐ろしいことにこれらの銘柄の昔の額面は50円なのです。つまり、元々額面50円換算になっているので、みなし額面では値嵩株の影響を取り除けない銘柄となっており、日経平均において大きなウェートを占めるに至ってます。
日経平均を揺らしたければ、上記銘柄を弄ればいいわけですね。
次に、除数についてです。
225採用銘柄の株価の合計 / 225 で計算する場合、株式の分割、併合や255銘柄変更(毎年10月初めに構成銘柄を入れ替えている)などによって指数の連続性が損なわれてしまう場面が出てきます。
具体的には、株式分割を1:10の比率で行う、日経225採用銘柄があるとする。
その際、株価が分割後1 / 10になり、分割により日経平均が下がってしまうことになる。
よってその連続性を担保すべく調節してくれるのが除数である。これは最初は225だったのが、段々と上記理由により変化して、現在は27.760 (2020年3月19日時点)になっている。
ちなみに先ほど出した具体例は、正確には現行のルールでは誤りである。
現在では分割比率が2倍をこえているものは、みなし額面の方で修正されることになっており、分子修正型に移行している。(分子修正の意味については以下に記載した式の通りである)
分子修正型の弊害など、詳細はダウ式平均株価を参照。
最後に日経平均の算出式を記載しておく。(下記式の分子は銘柄A、B、…と225銘柄続く)
以上より日経平均の算出方法が分かりました。
では、本題。
なぜ日経225の時価総額の変化率と日経平均株価の変化率はズレるのか?についてですが、分かりやすい例として、値嵩株のファーストリテイリングと低位株のみずほFGを使って説明します。分かりやすくするため、前提としてファーストリテイリングとみずほFG以外の日経平均構成銘柄は動かないものとします。
では、みなし額面と除数を使って計算してみましょう。(除数は27.76とする)
ファーストリテイリングが株価45,000円から40,000円に下落したとする(約11%下落)
そうすると日経平均のインパクトは…
下落前
{ 株価45,000円×(50円 / 50円)}÷ 除数27.76 ≒ 1,621円
下落後
{ 株価40,000円×(50円 / 50円)}÷ 除数27.76 ≒ 1,441円
よって、ファーストリテイリングが株価50,000円から40,000円に下落すると日経平均は1,621-1,441 = 180円分の下落をもたらすことになる。
この時ファーストリテイリングの時時価総額の変化は…
時価総額変化額 = (45,000円 – 40,000円) × 発行済株式数約1.06億株
=5,300億円
よって株価45,000円から40,000円に下落して5,300億円の時価総額が飛んだことになる。
では次にみずほFG
みずほFGが株価120円から140.9円に上昇したとする(約17.4%上昇)
そうすると日経平均のインパクトは…
上昇前
{ 株価120円×(50円 / 50円)}÷ 除数27.76 ≒ 4.3円
上昇後
{ 株価140.9円×(50円 / 50円)}÷ 除数27.76 ≒ 5.1円
よって、みずほFGが株価120円から140.9円に上昇すると日経平均は5.1-4.3 = 0.8円分の上昇をもたらすことになる。
この時みずほFGの時価総額の変化は…
時価総額変化額 = (140.9円 – 120円) × 発行済株式数約253.9億株
≒ 5,300億円
よって株価120円から140.9円に上昇して5,300億円の時価総額増えたことになる。
つまり…
時価総額の合計はファーストリテイリングの減少分ととみずほFGの増加分を足すと0となる。よって市場全体では時価総額は変わらないので日経平均の時価総額の変化率は0。
一方、日経平均は上記計算の通り、ファーストリテイリングが180円下落させるのに対して、みずほは0.8円程度しか上昇させず、差し引き日経平均は約179円の下落。日経平均の時価総額は変わらないのに日経平均は下落したわけです。
以上が、日経225の時価総額の変化率と日経平均株価の変化率はズレる理由になります。
この意味するところは…最初に書いた式の通りです。
PBRは時価総額 / 純資産で算出しますが、時価総額が前日比で不変、純資産も前日比で不変とするならば、PBRも前日比で不変。
そして、BPSを算出するには、日経平均株価をPBRで割ることで算出できます。よって日経平均平均株価が前日比で下落、PBRが上記の通り前日比で不変であればBPSは前日比で減るという結果が得られるわけです。
以上より、225採用企業の純資産が目減りする以外に日経平均株価の算出の都合上、日経平均株価のBPSが減ることがあるということをお伝えしたく長々と記載しました。
それが嫌な方はTOPIXを使えばよいのかもしれませんが、日経平均株価の方が国内ではメジャーであることや、日経平均の方が無料のデータがそろっていることもあり、利用しやすい側面があります。
よって使い方を間違えなければ日経平均でも問題ないと考えてます。例えば、過去との比較に使うのであれば、過去も同じ条件で比較しているので分析の意味はあると考えてます。注意点を把握して利用するのが良いと思います。
以上。