お疲れ様です。
先日、PERとPBR、ROEについて記載しましたが、今回はその組み合わせ。
最初にエクイティスプレッドについて記載します。
エクイティスプレッドの式は…
エクイティスプレッド = ROE-r である。(rは資本コスト)
エクイティスプレッドが正(ROE >株主資本コスト)の時、株主価値が創造されているといえます。詳しくはこちらのレポートを参考にどうぞ。
ただし、エクイティスプレッドの算出は個々人によって異なる可能性があります。
ROEはバシッと決まるのですが、問題は資本コストです。この資本コストだけで別の記事いくつも作れてしまうくらい算出方法が様々で、人によって異なり、扱いが難しいです。
株主資本コストの推計方法は、プライシングによる方法、バリュエーションによる方法の2つに分けられ、前者は株主資本コストをリスクフリーレートとリスクプレミアムの和として推計する。一方、バリュエーションでは、配当利回り、PER、PBRなどの情報を用いて株主資本コストを推計する。
例として、先に挙げた前者の方法で手軽なやり方を記載する。
マーケットのリスクプレミアムを8%程度と決め、インデックス(日経、TOPIX等)と個別株のそれぞれのリターンを使って回帰分析し、その傾き=ベータが得られる。そして、ベータと8%を掛けたものにリスクフリーレート(長期国債の利回り)を足したものを資本コストとして使います。 興味ある方は以下のサイトを参考にして実際に手を動かしてみると分かりやすいかもしれません。(エクセルを使ったベータ値の算出)
でもホントに8%なの?俺の株に対する要求収益率はもっと高いんだけど…なんてことが言えるわけで…、実際には要求収益率を出す方法はたくさんあるわけです。
以下参考になりそうなサイト載せておきます。(私の下手な説明より分かりやすいです)
私はエクイティスプレッドを出すときは資本コストを少し大きめに出すよう調整し、エクイティスプレッドを厳しめに出すようにしてます。
では、エクイティスプレッドを利用して株価の算出するモデルを紹介します。
まず株価を出す式が以下になります。
※ P=株価 B=自己資本(純資産) r=資本コスト
ROE-rの部分がエクイティスプレッドを表しており、エクイティスプレッドが高いほど、算出株価が高くなり、経済的な意味も間違ってなさそうです。
では、この式がどのようにできるのかを記載します。
上記の式を下記のように変形します。
自己資本を両辺にかけると、右辺の式が出てきます。
Eという文字が急に出てきておりますが、これは…
B(純資産)× ROE = E(利益)
を表します。
よって先ほどの右辺の式を言葉に直すと…
純資産(B)+利益(E)から株主の期待利益(B×r) を差し引いた余剰利益(E – B×r)を資本コスト(r)で割り引いたもの
ということができる。
つまり、これは残余利益モデルを基に作られている。(リンク参照)
残余利益モデル(Residual Income Model、Excessive Income Model)はRIMモデル、またの名をOhlsonなどの研究者の頭文字をとり、EBOモデルと呼ばれる。
以下に意義など詳しく書いた有用な資料を見つけたので引用します。
私がこのモデルについて思うことは、個人投資家にとっては扱いやすいモデルだなと思ってます。
似たようなバリュエーションモデルとして、
配当割引モデル(DDM:Dividend Discount Model)
EVAモデル(EVA:Economic Value Added)
割引キャッシュフローモデル(DCF:Discount Cash Flow)
があるが、これらで算出するには配当やFCF、WACC、NOPATなどが必要である。
よって残余利益モデルの方が必要なデータの収集が容易である。
では以下に示す残余利益モデルから、どのように、上記の右辺のようにコンパクトな式になるのかという点を記載します。
本来1年目、2年目と残余利益は異なるが、ここを一定とすると、右辺のB(自己資本)を除けば、公比は1 / (r+1)、初項は残余利益 /(r+1)の公比数列をとなるので、等比数列の公式より以下のよう変形される。(残余利益 = E – B×r)
よって最初に示した、式と一致した。
※ 2020年11月 追記
成長を加味した残余利益モデルの式のまとめも載せておく。(以下の式で最初の純資産 Bが抜けているので、最後の式に追加して考慮してください。スミマセン)
初項が 残余利益 / (1+r)
公比が (1+g)/(1+r)
の等比数列になっており、公比数列の和の公式より…
以上より、PER、PBR、ROEとその応用としてバリュエーションモデルから理論株価の算出を行った。
では、2020年3月6日時点の楽天RSSでとった元データを編集し、実際に算出したエクイティスプレッドとRIMで出した理論株価と直近株価の乖離を記したExcelファイルを載せておく。(対象は東証上場銘柄全社だが、ETF、ETN、REITは除外)
黄色いセルのEquitySpread(T)とEquitySpread(N)はTOPIXと日経225から算出したベータを使用しエクイティスプレッドを出している。
(※独自に負荷をかけてEquitySpreadを出しているがその点はここでは省く。 ※TはTOPIX、Nは225)
またRIM乖離(T)、RIM乖離(N)は、上記のそれぞれのEquitySpreadからRIMにより理論株価を出し、直近の株価との乖離を見ている。式は以下の通り。
RIM乖離 = {(RIM算出の理論株価ー直近の株価)×100} / 直近の株価
乖離率が大きいほど、直近の株価が理論より安い価格となる。
データがN/Aとなっている個所については、会社予想利益が赤字か、若しくは一時的に債務超過に陥り純資産がマイナスになっている銘柄である。
話は変わるが、先ほどの株価の式をB(自己資本)で割ると、PBRが算出される。
これを見るとPBRが1倍以下になっているということは、ROE-r の部分が負(エクイティスプレッドがマイナス)ということです。PBRが1倍を割れているというのは、割安で良い意味として使われることが多いですが、一方でROEが資本コストを上回っていないということは、企業価値を毀損しているという見方もできるわけです。
ちなみに、ROEの分子である利益の部分に会社予想利益を用いて算出するとエクイティスプレッドが正になっているのに、現在のPBRは1倍割れになっていることがあります。これは、会社予想ベースではROEが高くなりエクイティスプレッドが正になっているが、市場参加者が予想する利益は低く、ROEを低く見積持っており、エクイティスプレッドが負になっているということです。もちろんどちらが正しいかは、未来のことなので分かりません。
以上がPERやPBR、ROEからその応用までで、記載したかったことです。
初めての方には分かり辛い式が多いかもしれないが、基本的にはググれば出てくることが多い。意味が分かってくると企業価値分析が面白くなり、より分析に深みが出てくるものと思われます。
以上